ランウェイを歩くたび、人生がもう一度立ち上がる

韓国シニアモデルたち

韓国シニアファッションモデル協会が示す
「装うケア」の可能性

今回訪ねたのは、韓国シニアファッションモデル協会。そこには、50代、60代、70代、時には80代の人々が集まり、姿勢を整え、歩き方を学び、メイクをし、衣装をまとってランウェイに立つ。彼らは若さをまねているのではない。むしろ、年齢を重ねたからこそにじみ出る表情、人生の厚み、歩幅の確かさを、自分自身の魅力として表現している。

介護美容の視点から見ると、この現場は非常に示唆に富んでいる。介護美容は、髪や肌を整えるだけのサービスではない。高齢者の尊厳、自尊感情、社会参加を支えるケアである。では、装うこと、歩くこと、人前に立つことは、どのように人を変えるのか。韓国のシニアモデルたちの声に耳を傾けると、その答えが少しずつ見えてくる。

ミン・ワンギ(左)とカン・サンヨン(右)

「年を取る」のではなく、「活動する時間が増える」

54歳のキム・ウンヒさんがシニアモデルを始めて、約1年になる。彼女は、始めて本当によかったと何度も語った。

「年齢を重ねると、どうしても気持ちが沈んだり、生活に活気がなくなったりします。でも、この活動を始めてから、毎日に活力が出ました。楽しく生活できるようになって、若返ったような気がします。年を取っているのではなく、これから活動できる時間がたくさんあるのだと思えるようになりました」

この言葉には、シニアモデル活動の本質が凝縮されている。人は年齢を重ねるにつれて、社会から求められる役割が少しずつ減っていく。仕事、子育て、家庭内での責任が一段落した後、ふと「自分は何のために毎日を過ごしているのか」と感じる瞬間がある。キムさんにとって、ランウェイはその空白を埋める場所になった。
キム・ウンヒ2
家族の反応も変わった。最初は「本当にモデルをするのか」と不思議そうに見ていた家族が、今では応援し、誇らしく思ってくれるという。彼女は昨年末に勤めていた会社を辞めた。仕事とモデル活動を並行するには時間的な制約が大きく、もっと自由に活動したいと考えたからである。現在は、週に1、2回ほどショーに参加し、福祉会館などでのボランティア活動にも取り組んでいる。

「いつまで続けたいですか」と尋ねると、彼女は迷わず答えた。「年を重ねるほど、むしろ年輪が出てくると思います。健康でいられる限り、長く続けたいです」。若いモデルにとって年齢は時に制限になる。しかしシニアモデルにとっては、年齢そのものが表現の深みになる。その発想の転換が、人を内側から変えていく。

キム・ウンヒ

更年期の時間を、もう一度「私の時間」に変える

55歳のカン・サンヨンさんは、シニアモデルを始めて約1年半になる。子どもの頃から「モデルをしてみたら」と言われることが多かったが、実際に挑戦する機会はなかった。結婚し、家庭を支え、日々の生活に追われるうちに、いつの間にか自分の夢は後回しになっていた。

シニアモデルを始めて最も変わったのは、「自分自身」だという。

「モデルという仕事は、自分を整えなければできません。だから外見だけではなく、内面も見つめるようになりました。私は何が好きなのか、何が得意なのかを、以前よりずっと考えるようになりました」

彼女は運動も以前より熱心にするようになった。少し体重が増えても、かつてなら「そのうち戻るだろう」と考えていた。しかし今はショーがある。衣装を着こなし、姿勢を保ち、舞台に立つために、体重管理、食事管理、筋力トレーニングが自然と日常に入ってくる。運動は趣味から、生活を支える必須の習慣に変わった。
カン・サンヨン(左)、キム・ウンヒ(右)
注目したいのは、彼女が「更年期」という言葉を自分の経験として語った点である。50代女性の多くは、身体の変化だけでなく、子育て後の喪失感、家庭内の役割変化、孤独感に直面する。カンさんは、何もすることがなくなり、家に一人でいる時間が長くなると、気持ちが落ち込みやすくなると話す。しかしモデル活動を始めてからは、家にいても自分を管理する理由が生まれ、外に出れば仲間と会い、練習し、舞台に立つ日を待つようになった。

そして何より、普段なら着ることのない華やかな衣装を身にまとう経験がある。「この年齢では着られないと思っていた服を着ることができる。それだけでも、人生が豊かになったように感じます」と彼女は笑う。友人たちは彼女の活動をうらやましがり、「あなたの写真を見るのが楽しみだから、もっと載せて」と言う人もいるという。自分の挑戦が、同世代の女性たちに代理的な喜びや勇気を与えているのである。

「シニアモデルに必要なのは、若いモデルのような美しさではありません。自分らしい個性です。失敗しても自然にカバーできる度胸や、堂々と歩く自信が大切です」。この言葉は、介護美容に携わる人にも響くはずだ。高齢期の美しさとは、若さへの回帰ではない。自分の人生を受け入れ、その人らしく表現する力なのだ。

カン・サンヨン

父親が変わる。男性シニアモデルの静かな革命

シニアモデルというと、女性の活動を想像する人が多いかもしれない。しかし韓国では、男性シニアモデルの存在感も高まっている。62歳のユン・ジュノさんは、若い頃からモデルに憧れていた。しかし子どもを育て、家族を支える父親として生きる中で、その夢を実現する余裕はなかった。現在も室内インテリア関係の仕事を続けながら、モデル活動を並行している。
ユンジュノ
「この活動をしている時が一番楽しいです。自分の心の中にあったものを、舞台の上で表現できる。それが一番の魅力です」

家族は最初、平凡だった父親が突然モデルの道に入ったことに驚き、不安も感じたという。しかし彼の姿が少しずつ変わっていくのを見て、今では応援してくれるようになった。これは、男性の老後にとって大きな意味を持つ。韓国でも日本でも、男性は長い間「仕事をする人」「家族を養う人」という役割に強く結びつけられてきた。その役割を離れた後、自分を表現する方法を持たないまま孤立してしまう人も少なくない。ユンさんの挑戦は、男性高齢者がもう一度「自分の顔」を取り戻す過程でもある。

60歳のミン・ワンギさんも、シニアモデルを始めて約2年になる。以前は建築関係の仕事をしていた。生活は、事務所、家、スポーツジムを行き来するだけだった。男性は退職後、することがなくなると食べることに向かいやすい。彼も一時は体重が90キロを超えていたという。しかしモデル活動を始めてから、「もっとよくなりたい」と思うようになり、12,3キロ以上の減量に成功した。姿勢も変わり、歩き方も変わった。
ミン・ワンギ
彼が語ったエピソードは印象的だった。ある日、車の中で韓国の歌手キム・チャンワンの「青春」という歌を聴いた。歌詞に触れた瞬間、「自分の青春はもう流れていってしまったのだ」と感じ、車を止めて声を上げて泣いたという。しかしシニアモデルを始めてからは、考えが変わった。「ああ、私には第2の青春が始まるのだ」。この転換こそ、装いと表現がもつ力である。

「職業として考えるなら、身長やビジュアルも必要でしょう。でも趣味としてなら、誰でも始められます。しかも、これはとても素敵な趣味です。大切なのは、腰をまっすぐに伸ばすこと。そして顔立ちよりも、心構えです。努力しようとする気持ちがあればいいのです」。この言葉には、介護美容の現場にも通じる実践的なヒントがある。姿勢を整えることは、身体だけでなく心を整えることでもある。背筋を伸ばすと、視線が上がる。視線が上がると、人と会うことが少し怖くなくなる。

ユン・ジュノ(左)、ミン・ワンギ(右)
ユン・ジュノ(左)とミンワンギ(右)2

「人生が歩いてくる」瞬間

韓国シニアファッションモデル協会の理事長、ユン・イルヒャンさんは、同協会を約10年にわたり育ててきた。ソウル市傘下の社団法人として活動し、会員は約3000人にのぼるという。もともと彼女は舞台企画やファッションショーに携わってきた。シニアモデルの魅力に気づいたきっかけは、ある大学教授のファッションショーだった。

若いモデルとシニアモデルが一緒に出演するステージで、一人の男性高齢者がランウェイを歩いていた。その姿を見た瞬間、彼女は強い衝撃を受けたという。

「若いモデルとは違って、人生が歩いてくるのを見た気がしました」

この表現は、シニアモデルの魅力を最も端的に表している。若い身体の美しさは、均整や勢いで人を惹きつける。一方、シニアの身体には、時間が刻まれている。背中の角度、手の動き、表情の深さ、歩く速度。そのすべてが、その人が生きてきた証しになる。ユン理事長は、そこに新しい美の可能性を見た。

韓国でシニアモデルへの関心が高まっている背景には、超高齢社会への移行がある。100歳時代を迎え、ベビーブーマー世代が「これからは自分のために生きてみたい」と考え始めている。彼らは単に長生きしたいのではない。美しく、健康に、社会とつながりながら、自分らしく年を重ねたいのである。

ユン理事長によれば、モデル教育を受けた参加者には明確な変化が現れる。姿勢がよくなり、隠れていた身長が約0.9センチ伸びた人もいるという。緊張感も生まれる。ただしそれは不安な緊張ではなく、胸が高鳴るような「ときめきの緊張」である。そのため基礎代謝が上がり、特別なダイエットをしなくても7キロ以上体重が落ちた人もいた。何より大きいのは、自尊感情の回復である。「社会から退いた」と感じていた人が、再び社会に戻ってきたように感じる。そこに幸福感が生まれる。

女性の場合は、表情や体型の変化が特に顕著だという。美しい服を着たい、メイクを楽しみたい、自分を表現したい。そうした願いは年齢で消えるわけではない。しかし東アジア社会では、年齢を重ねた女性が華やかに装うことに、どこか遠慮が伴ってきた。シニアモデルという肩書きと舞台は、その遠慮をほどく役割を果たす。「私はモデルだから、きれいにしていい」「私は舞台に立つ人だから、堂々としていい」。その許可が、人生の質を大きく変える。韓国シニアモデルたち

介護美容を学べること

ユン理事長が忘れられないエピソードとして語ってくれたのは、ある夫婦の話だった。銀行支店長として定年退職した男性が、退職後6カ月間、喪失感で部屋から出てこなくなった。妻がシニアモデル養成課程を知り、夫婦で応募した。6カ月の教育課程を終えた後、夫は鬱を克服し完全に元気を取り戻し、現在もモデルとして活動しているという。家族は協会に深く感謝した。ユン理事長にとっても、大きな喜びであり、活動を続ける理由になっている。
ユン・イルヒャン理事長

この話は、介護美容関係者にとって重要な示唆を持つ。高齢者の元気を支えるものは、医療や介護サービスだけではない。時に、髪を整えること、メイクをすること、似合う服を選ぶこと、人前で拍手を受けることが、人を部屋の外へ連れ出す力になる。美しさは贅沢ではない。高齢期においては、生きる意欲を支える社会的処方にもなり得る。

ユン理事長は、「ビューティとシニア、ファッションとシニアは、もはや切り離せない」と語る。かつては20代が着る服、50代が着る服、70代が着る服が分かれていた。しかし今は、世代を超えて同じ服を楽しむ時代になっている。Kビューティが世界で注目される中、韓国のシニアがなぜ若々しく見えるのかに関心を寄せる海外の人々も増えている。そこには、美容、健康、自己表現が一体となった新しい高齢期の文化がある。

韓国シニアの現場で今、静かに起きている変化。それは、高齢者を「支えられる存在」としてだけ見るのではなく、「表現する存在」「挑戦する存在」「もう一度輝く存在」として見つめ直す動きである。介護美容がこれから広がっていくためにも、この視点は欠かせない。人生の後半にも、人は美しくなれる。人前に立てる。拍手を受けられる。そして、自分の足で新しい舞台へ歩き出すことができる。

 

この記事をシェアする